隠された生きづらさ、開かれた道
「なぜか人間関係がうまくいかない」
「いつも自分を責めてしまう」
「感情のコントロールが難しい」
「漠然とした不安や空虚感がある」
そんな生きづらさを抱えていませんか?
カウンセリングや心療内科を訪れても、「うつ」や「不安障害」と診断され、なかなか根本的な改善に至らない――そんな経験をお持ちの方も多いかもしれません。実は、その生きづらさの根っこに、複雑性PTSDという状態が隠れている可能性があります。
複雑性PTSDとは?
PTSD(心的外傷後ストレス障害)というと、大きな事故や災害、犯罪被害といった「明らかなトラウマ体験」を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、複雑性PTSDは少し違います。
複雑性PTSDは、長期間にわたる繰り返しのトラウマ体験によって生じます。
たとえば
- 幼少期からの虐待やネグレクト
- 長期間のDVやハラスメント
- 抑圧的な環境での育ち
- 慢性的な否定や批判にさらされる経験
こうした体験は、一つ一つは「大したことない」と思えても、積み重なることで深い傷となり、その人の「自己感覚」や「人間関係のパターン」、「感情の調整能力」に影響を及ぼします。トラウマは「心の傷」ではなく「脳の傷」
トラウマ治療の第一人者である杉山登志郎医師は、こう述べています。
「トラウマは心の傷ではない、脳の器質的機能変化を伴う脳の傷である」
これは非常に重要な視点です。トラウマは単なる「気持ちの問題」や「考え方の問題」ではありません。脳の働き方そのものに変化をもたらすものなのです。
だからこそ、「気持ちの持ちよう」や「前向きに考える」といったアプローチだけでは、根本的な改善が難しいのです。脳と身体に働きかける、専門的なアプローチが必要になります。
「小トラウマ」の集積という視点
また、大きな事件や事故といった「大トラウマ」でなくても、小トラウマの集積によってフラッシュバックは起きます。
日常的な
- 親からの否定的な言葉
- 見捨てられ体験
- 感情を無視される経験
- 安心できない環境
こうした「小さな傷つき」が積み重なることで、脳には大きな影響が残ります。
そして本人も周囲も、これを「トラウマ」だと認識していないことが多いのです。
複雑性PTSDの特徴
複雑性PTSDには、通常のPTSDの症状(フラッシュバック、回避、過覚醒など)に加えて、以下のような特徴があります。
- 感情調整の困難: 感情が激しく揺れ動いたり、逆に何も感じなくなったりする
- 否定的な自己概念: 「自分には価値がない」「自分はダメな人間だ」という深い信念
- 対人関係の困難: 人を信頼できない、適切な距離感がわからない、関係が壊れることへの過度な恐れ
理解されにくい症状: 激しい感情の爆発
たとえば、些細なきっかけで激しく怒ったり、泣いたり、暴れたりする――こうした癇癪(かんしゃく)のような行動の背景に、実はトラウマが隠れていることがあります。杉山医師は、激しい攻撃的行動について「このような激しい攻撃的行動の噴出はフラッシュバック以外にはありえない」と指摘しています。
周囲からは「感情のコントロールができない」「わがまま」と見られがちですが、実際には過去のトラウマが「今ここで起きている」ように感じられ、脳が危機反応を起こしているのです。そして、多くの場合、本人も周囲も、これがトラウマの影響だと気づいていません。「自分の性格の問題」「努力が足りない」「甘えている」――そう思い込んで、一人で苦しんでいる方が少なくないのです。
従来のアプローチの限界と、新しい動き
長い間、トラウマの治療といえば「トラウマ体験について話す」ことが中心でした。しかし、複雑性PTSDの場合、この方法には限界があることがわかってきました。
- トラウマ記憶に触れることで、かえって症状が悪化する場合がある
- 何度も辛い体験を語ることが、再トラウマ化につながる可能性がある
- そもそも「話せない」ほど深い傷である場合も多い
- 解離状態にある場合、通常の対話療法では届かない
「トラウマを語らなければ治らない」この思い込みが、多くの方を苦しめてきました。しかし近年、トラウマ治療の分野では新しいアプローチが生まれています。
そして大切なのは、一つの方法に固執するのではなく、その方に合わせて効果的に組み合わせることです。
効果的な4つのアプローチ
当オフィスでは、お一人お一人の状態に合わせて、以下の4つのアプローチを組み合わせています。
1. ナラティブ・エクスポージャー・セラピー(NET)
ナラティブ・エクスポージャー・セラピー(NET)は、トラウマ記憶を「人生の物語」として再構成していく方法です。
複雑性PTSDの方の記憶は、しばしば断片的で、時系列がバラバラになっています。辛い出来事が「今ここで起きている(ホット・メモリー)」ように感じられ、過去と現在の区別がつきにくくなっているのです。
NETでは
- 人生を時系列に沿ってトラウマに焦点をあて振り返り語る
- 語られた内容をカウンセラーが文章化し、読むことで記憶を冷ましていく
- ポジティブな出来事も含めて、自分の人生の物語を作る
- トラウマ体験を「過去の出来事」として位置づけ直す
この作業を通じて、記憶が整理され、「あれは過去のことで、今は安全だ」という感覚を取り戻していきます。ただし、このアプローチは、ある程度の安定性が確保できている方に適しています。 まだ不安定な状態の方には、次に紹介する「トラウマに触れない療法」から始めることをお勧めします。
2. トラウマに触れない療法
「トラウマを語らなければ治らない」――これは誤解です。
近年、トラウマ記憶に直接触れることなく、トラウマの影響を軽減できる方法が開発されています。
TSプロトコール(Traumatic Stress Protocol)
杉山登志郎医師が開発したTSプロトコールです。
TSプロトコールは、身体へのアプローチを通じてトラウマを処理する方法です。TSプロトコールの最大の特徴は、トラウマ体験を詳しく語る必要がないという点です。身体への左右交互刺激と肩呼吸という、シンプルな手法のみで実施します。また、解離のある方には自我状態療法を組み合わせて行います。(TS処方を含むために主治医の指示のもとに行うことが基本です)
基本理念
- トラウマは心ではなく「身体」に残っている
- 身体から安全に手放していく
- 必要最小限の説明で、短時間に実施
実施時間はわずか数分間。この短さが、患者さんの負担軽減と安全性の高さにつながっています。
対象者
TSプロトコールは、従来の PTSD診断基準に当てはまらない「隠れたトラウマ」にも対応できる点が画期的です。
適用範囲
- 子ども虐待による複雑性 PTSD
- 発達障害のある方の二次障害
- 解離性同一性障害
- 小トラウマの積み重ねによる症状
- いじめ、パワハラ、DV被害
- 事故、災害などによるトラウマ
特に、発達障害のある方や解離を伴う複雑性PTSDの方は従来のトラウマ治療が難しいケースが多く、TSプロトコールの簡便さと安全性が大きなメリットとなります。
TSプロトコール以外にも、以下のような身体へのアプローチがあります。
- ソマティック・エクスペリエンシング: 身体感覚を通じてトラウマを解放
- センサリーモーター・サイコセラピー: 身体の動きや姿勢からのアプローチ
- マインドフルネス、ヨーガなど: 今に意識を向け、体の感覚に集中する
これらのアプローチに共通するのは、「頭で考える」のではなく「身体で感じる」ことを通じて回復していくという視点です。なぜなら、トラウマは「言葉にならない体験」だからです。言葉で説明できないからこそ、身体に働きかける方法が有効なのです。
3. 自我状態療法
複雑性PTSDの方の多くに見られるのが、解離という状態です。
解離とは、つらい体験から心を守るために、意識や記憶、感覚を切り離す心の働きです。
たとえば
- 「別の自分」が現れる
- 記憶が抜け落ちる
- 自分が自分でないような感覚
- 年齢によって違う「自分」がいる感覚
こうした解離は、決して「異常」ではありません。耐え難い体験を生き延びるための、心の創造的な適応なのです。
自我状態療法とは
自我状態療法は、解離によって生まれた「さまざまな自分(自我状態)」と対話し、それぞれの状態を理解し、協力関係を築いていく方法です。従来、解離性障害の治療では「人格の統合」が目標とされてきました。しかし、杉山医師は重要な指摘をしています。
「人格の統合は不要というより行わないがよい。解離する能力を用いて生き延びてきたサバイバーから解離を奪ってしまうのは危険であり非治療的と思うからである」これは画期的な視点です。
解離は「問題」ではなく「サバイバルスキル」です。それを無理に「統合」しようとすることは、その人が生き延びるために獲得した大切な能力を奪うことになりかねません。
自我状態療法の実際
自我状態療法では
- それぞれの自我状態の役割や気持ちを理解する
- 「怖がっている子どもの自分」「怒っている自分」「守ろうとする自分」などと対話する
- 自我状態間のコミュニケーションを促進する
- 統合ではなく、協力を目指す
目標は「一つになること」ではなく、「さまざまな自分が、お互いを理解し、協力しながら生きていけること」です。
このアプローチにより
- 急な気分の変化や行動の理由が理解できる
- 「自分がコントロールできない」感覚が減る
- 内面の葛藤が和らぐ
- 自分自身への思いやりが深まる
解離を「治すべき症状」ではなく「尊重すべき能力」として扱うことで、多くの方が安心感を取り戻していきます。
4. リラクゼーション習得の重要性
トラウマを抱えている方の多くは、常に緊張状態にあります。
- いつも何かに警戒している
- 身体が固く、力が抜けない
- 安心してリラックスすることができない
これは「過覚醒」と呼ばれる状態で、トラウマの典型的な症状の一つです。
この状態では
- 感情が不安定になりやすい
- 些細なことで圧倒されてしまう
- 回復のための心理的作業に取り組む余裕がない
だからこそ、まず安全に「リラックスできる」という体験を積み重ねることが、すべての土台となります。当オフィスでは、以下のようなリラクゼーション法をお伝えしています。
- 自律訓練法
- 自己暗示を用いた心身のリラックス法
- 呼吸法
- 副交感神経を活性化させる呼吸のコントロール
- 漸進的筋弛緩法
- 筋肉の緊張と弛緩を繰り返すことで深いリラックスを得る
神経科学の研究により、リラクゼーションの実践が自律神経系を整え、ストレス反応を軽減し、トラウマからの回復を促進することが明らかになっています。
安心してリラックスできる――この感覚を取り戻すことが、回復への第一歩です。
※アプローチの効果測定のためにIES-R(PTSDの症状評価尺度)を用い症状の低減を確認します。
個別に合わせた統合的アプローチの価値
ここまで4つのアプローチをご紹介しましたが、大切なのは「どれか一つ」ではなく、その方に合わせて組み合わせることです。なぜ統合的アプローチが必要なのか複雑性PTSDの状態は、お一人お一人異なります。
- トラウマの種類や時期
- 解離の程度
- 現在の生活状況や安定性
- 持っているリソース(強み、サポート)
- 心身の状態や準備度
だからこそ、画一的な方法ではなく、その方の今の状態に最も適したアプローチを選び、組み合わせていくことが重要なのです。
実際の組み合わせ例
Aさんの場合
- まず自律訓練法でリラクゼーションを習得
- 安定してきたところで、TSプロトコールで身体に残るトラウマ反応を処理
- 解離状態がある場合は、自我状態療法で内面の協力関係を築く
- さらに落ち着いてから、NETで人生の物語を再構成
Bさんの場合
- 話すことが得意な方なので、NETから開始
- 途中で不安定になったら、リラクゼーション法で安定を取り戻す
- 言葉にならない部分は、TSプロトコールで補完
- 「別の自分」が現れる場合は、自我状態療法でそれぞれの気持ちを理解
Cさんの場合
- 激しい感情の爆発(フラッシュバック)が頻繁にある
- まずリラクゼーション法で、自分を落ち着かせるスキルを習得
- TSプロトコールで身体の反応を処理、1クール後に自我状態療法を加え、「怒りの自分」「怖がっている自分」それぞれの自我を整えていきます。
このように、決まった順序や方法はありません。カウンセリングの中で、状態を見ながら、一緒に最適な道筋を見つけていきます。
心理カウンセリング+ケースマネジメント
当ルームでは、心理カウンセリングだけでなく、必要に応じてケースマネジメントも提供しています。複雑性PTSDの方の多くは、心理的な問題だけでなく、生活上のさまざまな困難も抱えています。
- 仕事や学業の問題
- 家族関係の調整
- 法律的なサポートの必要性
- 医療機関との連携
- 福祉サービスの利用
こうした現実的な問題にも、精神保健福祉士としての視点から、必要な社会資源につなげたり、関係機関と連携したりするサポートを行います。
心の回復と、生活の立て直しを、両輪で支えていく――これが当オフィスの特徴です。
回復のプロセス: 小さな一歩から
ここまで読んで、「自分にもできるだろうか」と不安に思われた方もいるかもしれません。大丈夫です。回復は、一気に起こるものではありません。小さな、ほんの小さな一歩から始まります。
回復の段階 トラウマからの回復は、おおむね以下の段階を経ます。
第1段階: 安全と安定の確保
- 今の生活で安全を感じられること
- リラクゼーションを習得し、自分を落ち着かせられること
- 信頼できるサポートがあること
第2段階: トラウマの処理
- 自分のペースで、トラウマに向き合う
- 身体に残った反応を解放する
- 記憶を整理し、意味づけを変える
- 解離した自我状態との協力関係を築く
第3段階: 人生の再構築
- 新しい人間関係を築く
- 自分らしい生き方を見つける
- 人生に意味や目的を感じられるようになる
このプロセスは、直線的ではありません。行きつ戻りつ、螺旋階段を登るように、少しずつ進んでいきます。
変化の兆し
回復の過程で、こんな変化に気づくかもしれません。
- 以前より眠れるようになった
- 人と話すのが少し楽になった
- 「自分を責める」時間が減った
- ふと笑っている自分に気づいた
- 「これでいいかも」と思える瞬間があった
- 感情の爆発が少し穏やかになった
- 「別の自分」の気持ちが理解できるようになった
どんなに小さくても、それは確かな変化です。私がカウンセリングの中で大切にしているのは、こうした小さな変化を見逃さず、一緒に喜び、味わうことです。
回復は、劇的な変化ではなく、小さな「できた」の積み重ねです。
回復を、一緒に支えていきます
もし今、この文章を読んで「もしかして自分も…」と思われたなら、それは大切な気づきです。そして、「どうしたらいいかわからない」と感じているなら、それも自然なことです。長い間、一人で抱えてきた生きづらさに、名前がつき、理解され、そして適切なアプローチで回復できるとわかったとき、多くの方が「ようやくここに辿り着けた」とおっしゃいます。この様な方のお力になれます。
- 複雑性PTSDかもしれないと思っている方
- 長年の生きづらさの原因がわからない方
- これまでのカウンセリングで改善を感じられなかった方
- トラウマについて話すことに抵抗がある方
- 感情のコントロールが難しく、激しい爆発がある方
- 「別の自分」がいるような感覚がある方
- 自分のペースで、安全に回復したい方
二子玉川心理ケースワークオフィスの複雑性PTSDへのアプローチの特徴
- 36年の臨床経験を持つ公認心理師・精神保健福祉士が対応
- トラウマに特化した複数のアプローチ(NET、TSプロトコール、自我状態療法、リラクゼーション法など)
- 心理カウンセリング+ケースマネジメントの統合的支援
- お一人お一人に合わせたオーダーメイドのアプローチ
まずはご相談ください、初回のご相談では、じっくりとお話を伺います。
- 今、どんなことに困っているのか
- これまでどんな経験をされてきたのか
- どんなふうに変わりたいと思っているのか
最も適したアプローチを一緒に考えていきます。無理に話す必要はありません。ご自身のペースで、大丈夫です。回復への道のりは、決して平坦ではないかもしれません。でも、一人ではありません。36年間、多くの方の回復に寄り添ってきた経験と、最新のトラウマ治療の知見を活かして、あなたの回復を支えます。
その生きづらさは、あなたのせいではありません。
トラウマは「脳の傷」であり、適切なアプローチで回復できます。
そして、回復への道は、必ず開かれています。
小さな一歩を、一緒に踏み出してみませんか?
- トラウマ~「こころの傷」をどう癒すか(講談社現代新書)テキストブック TS プロトコールTSプロトコールの臨床(日本評論社)発達性トラウマ症の臨床(金剛出版) 杉山登志郎著
- ナラティブ・エクスポージャー・セラピー(金剛出版) マギーシャウアー他著 森茂起訳
- 自我状態療法 理論と実践(金剛出版) ジョン・G・ワトキンス他著 福井義一他訳
- 自律訓練法 改訂版(日本評論社) 松岡洋一著