私の敵は私、私の味方も私

今回は、セルフマインドを高めるためのロールプレイとフィードバックの方法についてのお話しです。
(セルフマインドとは、自分の思想や意思をコントロールして、周囲の言動に依存しないやる気やマインド)
効果的と感じる技法があります
長年カウンセリングを行ってきて、私が最も効果が高いと感じる技法があります。それは、認知行動療法を用いたロールプレイを行いフィードバックする技法です。私はセルフマインド・ロールプレイ・フィードバック(Self-Mind Role-Play Feedback 略してSMRF)と呼んでます。
この方法の優れた点は、ロールプレイとフィードバックを活用することで、他の技法よりも即効性と持続性の高い認知の修正ができることです。また、当オフィスのクライエントにも非常に人気があります。
「100回の書き出し(トリプルカラム法やコラム法)は1回のロールプレイに如かず」(少し誇張していますが)と言えるでしょう。今回はSMRFを用いた認知修正の方法をご紹介します。
SMRF (Self-Mind Role-Play Feedback)とは
自己認識と自己表現を高めるための技術です。この方法では、自分自身の肯定的思考と否定的思考を演じ、自分の行動や感情を客観的に観察し、フィードバックを得ることができます。
当オフィスで行う場合は、カウンセラーと一緒にロールプレイを行い、その様子をビデオ撮影します。その場でビデオを確認し、感じたことを話し合います。また、撮影した動画データは持ち帰ることも可能です。
お一人で行う場合は、文章に書き出すか、一人二役で動画を撮って確認する方法があります。最も効果が高いのは録画です。録画することでリアリティが増し、アドリブが入ることで予想外の実践的な合理的思考や、否定的思考に気付くことができます。これにより、日常生活でのスピード感のある認知修正が可能になります。
SMRFの具体的なステップ
1. セルフマインドの準備と練習
認知行動療法の認知再構成法を用いて自動思考に焦点を当てます。非合理的思考と合理的思考を意識し、文章化します。日常気分記録表やコラム法を用いることをお勧めします。
「日常気分記録表」(デビット・D・バーンズ著)は、日常生活での感情や思考を追跡するためのツールです。以下のステップで簡単に書けます。
- その日に起きた具体的な出来事を記入します。
- 例:「上司とのミーティングで進捗について指摘され、このままではこのチームから外される可能性を示唆された」
- その出来事に対して浮かんだ自動的な思考を記述します。
- 例 : 「私は無能な社員に違いない、私は人生の負け組だ、もう取り返しのつかない人生だ」
- 落ち込んだ、怒ったなどの具体的な感情を書きます。
- 例:「悲しい」「怒り」「不安」など
- 感情の強さを0から100で評価します。
- 例 : 「悲しい 80」「怒り 60」「不安 90」
- 非合理的思考を合理的な思考に変えます。
- 例 : 「今回は確かに準備に手間取ったが無能なわけではない。次には今回より早くできる。例えこのチームから外されても人生が終わったわけではない。」
- 感情の強さを0から100で評価します。
- 例 : 「悲しい 0」「怒り 10」「不安 20」
2. ロールプレイ
認知再構成法で作成した自動思考(否定的思考)をカウンセラーが担当し、クライエントが合理的思考を行います。これにより、頭の中で自己批判的な部分と自己愛的な部分との闘いが始まります。
SMRFでは「声の外在化技法」(デビット・D・バーンズ著)を用います。この技法を行う上での重要なポイントは以下の通りです。
非合理的思考(否定的思考)は二人称(あなた、君)で語ること
合理的思考(肯定的思考)は一人称(私、僕)で語ること
例えば、非合理的思考に一人称を使ってしまうと、
否定的思考役:「私は人生の負け組だ、もう取り返しのつかない人生だ」
合理的思考役:「そんなことはないよ、君はまだまだこれからだよ。さあ、ここから頑張ろう」
となり、これでは袋小路に入り込み、効果がありません。
とてもよくある会話のパターンで、よそ者の視点で自分のことを理解されず、今の自分を否定され、中身が入ってきません。そのため、
否定的思考役:「君は人生の負け組だ、もう取り返しのつかない人生だ」
合理的思考役:「確かに今の私は、負け組と言われても反論の余地はない。でも、これからの人生を変える力を持っていると信じている。ここから進めていくよ」
とします、この違いが技法の成功を導きます。
ここで重要なことは否定的思考は他人の言葉、合理的思考は自分の言葉で語ることが重要なポイントとなります。
そして、ここからロールプレイは続きます。認知行動療法で作った台本からアドリブへと発展し、否定的思考役がさらに否定を続けます。合理的思考はそれに対し、合理的かつ肯定的に返していきます。もし否定的思考役が詰まったら、立場を交代して継続します。
3. フィードバック
ロールプレイでの会話をビデオに撮り、カウンセラーと共に確認します。合理的思考役で話している自分を客観的に見ることが重要です。この時、脳内で意識的・無意識的なフィードバックが起こります。人は他者から指摘されるよりも、自分で自分を客観的に見る方が効果的なフィードバックを得られるため、SMRFは高い効果を発揮します。
その後、カウンセラーとポジティブにディスカッションを行います。これにより、新しい自分、つまり本来の自分を感じることができるでしょう。また、ビデオでの自分を見ることで、無意識に自分を受け入れるプロセスも始まります。
SMRFの効果
私たちを苦しめるのは、否定的で非合理的な自動思考です。この技法の効果は、自動思考を変化させる点にあります。多くの人が認知行動療法を「知っている」かもしれませんが、本当に実践し「マスターしている」人は少ないです。最も効果的にマスターできる方法が、SMRFを用いた認知行動療法(声の外在化技法)です。
- 二人称で向けられた否定的思考に対して一人称で合理的思考を語っていくことでマインドセット(先入観、思い込み)の変容が起きやすくなります。
- ロールプレイとして行うことで脳は活性化し、思考の実践(実戦)トレーニングとなり臨場感を持ち体験となります。
- ロールの交代により、自身の否定的思考を客観的に体感することは認知の修正を強力に促します。
- フィードバック効果で意識的、無意識的な修正が行われます。
- 視覚的にフィードバックすることで、自分を見慣れてきます。自分を見慣れてくることは、自己受容に繋がっていきます。人は見慣れたものに愛着を持つからです。(しっかりと自分を愛でましょう) 中には「ビデオ撮りは苦手です」とおっしゃる方もいらっしゃいます。その場合は、ビデオ撮りせずにロールプレイのみで行うことも可能です。しかし、少々の勇気を出してビデオ撮りを継続して行うと、最初は「見たくない!恥ずかしい!」と感じるかもしれませんが、やがて「意外と良いですね!」と感じるようになり、視覚的な認知の修正と自己受容が進んでいきます。
SMRFで「よそ者の私」に気づきましょう
「もう無理、このままではダメになる」
「何もできず、孤独で貧乏になるに違いない」
「私の人生は失敗だらけ、もう手遅れだ」
「病院やカウンセリングを受けても治らない、もう無理だ」
これらの否定的な自動思考は、実はあなたのフリをした“よそ者”です。私たちは「親、兄弟」「先生」「上司」「尊敬している人」etcから自分に対する否定的思考を取り入れてしまい、自分の思考だと思い込んでしまったのです。
よそ者の私 vs 本当の私
“よそ者の私”と“本当の私”を区別しましょう。もう、“よそ者の私”は必要ありません。最近ではSNSなどで目にする否定的な意見も、この“よそ者の私”を生み出す強烈な原因です。
“よそ者の私”は貴方を苦しめます、否定します、決して自分を許すことをさせません。
“本当の私”は私を勇気づけます、肯定します、全ての自分を許します。
“よそ者の私”と“本当の私”を区別することが、現代を生き抜くために重要です。
ぜひ、“よそ者の私”を見破りましょう。
「私は私、私の敵は私のフリをしたよそ者の私」
- ヘルシースイッチの中で「認知行動療法応用編ロールプレイを行う」の詳細内容となります
- 不安もパニックもさようならデビット・D・バーンズ著 星和書店
- メンタライぜーションを学ぼう池田暁史 日本評論社